私のブレザー史

着物に出会う前の私はファッションといえばアイビー。中でも定番はブレザージャケットで、初めてブレザーを手にした10代の頃から50代の今まで、欠かさず着てきました。
写真は、私が初めて手にした最初のブレザー。10代の頃ですから、もう30年以上前のものです。

(1)J.PRESS のブレザー

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かなり年季が入っていて折りジワが付いてしまっていますが、これは捨てられずに取ってあります。
今では一般的には見られないフラノ生地のかなり厚めな感じがするもの。基本形の段返り3つボタンです。
なにしろ大学入学当時はまともな服はこれ一着でしたからフォーマルにはサージ生地のグレイのパンツで、カジュアルにはエドウィンのジーンズで合わせてどこへでも出掛けていきました。
最初に渋谷に出掛けたとき、一緒にはしゃいでいた友人と渋谷駅の階段で転んでしまい、第2ボタンが吹っ飛んでしまった思い出があります。
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J.PRESS といえばこの赤いライン。ブルックスと人気を二分する人気ブランドでした。
1902年、アメリカ東部ニューヘブンでイェール大学の門前に創業したのがブランドのはじまり。長年に亘ってアメリカの歴代大統領をはじめ、アメリカ東部の名門私立大学出身のエリートに愛された歴史は、そのままアメリカの近代史の一面であり、だからこそ日本では根付かなかったのだと思います。日本ではオンワードが販売権を買い取ったので、自社の展開する一ブランドという位置づけです。
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サージ生地のパンツにも赤いライン。オーセンティックモデルです。アメリカの服はカッコいいなぁと思っていました。
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最初は「Jプレ」でしたが、大学を卒業する頃にはすっかりブルックスブラザーズ派に変わってしまいました。
なぜかは分からないですが、やっぱりベーシックはブルックスだよね、なんて訳も分からず思っていた事と、ブルックスのブレザーの色合いは、他のブランドよりも黒に近く、それがとってもカッコ良く感じていたからです。憧れの青山本店に出掛けたこともありました。

(2)BROOKS BROTHERS のブレザー
 このブルックスは、30代最初の頃に買ったものだと思います。かなりヤレていますが、50代になった今もたまに着ています。
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ブルックスブラザースはアメリカの建国から50年ほど後の1818年創業というクラッシック。リンカーン大統領にも愛用されたとか。
そのブランドマーク「ゴールデンフリース(金羊毛)」は1850年に登録されたものとか。金毛の羊は、ギリシア神話の船首の女神像 イアソン・アルゴー号の航海で取り上げましたが、イオルコスという国の王子であったイアソンが叔父に奪われた王位を奪還するというお話に因みます。叔父のペリアスは王位を奪われてなるものかと不可能と思われる課題、戦争の神・アレスの龍が守る黄金の羊の毛皮を取ってこられたら王位を返すと約束してイアソンを亡き者にしようとするというこの神話に出てくるのが黄金の羊。黄金の羊は、エロスがプシュケと結婚する時にも結婚に反対する母のアフロディーテがプシュケを虐めるためにも黄金の羊毛を取ってくるように命じるシーンがあります。ブルックスがなぜこのゴールデンフリースをブランドマークにしたのかは分かりませんが、ギリシア神話の黄金の羊毛の位置づけは、非常に綺麗なもの、貴重なものとして登場するので、それにあやかったのかもしれませんね。
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 ブルックスのブレザーは、とっても男らしい感じがするところが好きです。アメリカン・エリートが育ててきた歴史がそう感じさせるのかもしれません。
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生地はファインサージで、いかにも仕事着という感じです。
長年着ているので、生地が擦り切れてテカッています。
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ESTABLISHED 1818 の文字も誇らしい、ブルックスの歴史を表しています。それにしても、なぜ日本の我々がこんなにアメリカそのものみたいな文化を素晴らしいものとして刷り込まれてしまったのかなぁと思います。好きなんですが、複雑な気持ちです。
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この頃、まだブルックスは日本製でした。私はこの後、30代半ばにはブルックスを離れてしまうのですが、型紙に原因があります。
日本製だった当時、私が記憶する範囲では、その製造を「ニューヨーカー」を展開する日本のメーカー、ダイドーリミテッドが請け負っていたと聞いたことがあります。その当時のブルックスは私の体型でも着られたのですが、製造元が変わる度に型紙が変わり、いつしかどう合わせても合わないものになってしまいました。ブルックスにフラれた感じがしました。
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(3) Paul Stuart のブレザー
 30代半ばの頃、ブルックスは体型に合わなくなってしまったので代わりになる物を探していた頃、偶然出会ったのが Paul Stuart のブレザーでした。当時、銀座、青山などにはニューヨークのポールスチュアート直営の店があり、デパートで売られているラインとはちょっと違ったものがラインアップされていました。日本製のものは三陽商会が係わっていたこともあるのか、型紙が自分によく合った物がありました。
 ブルックスが純粋にアメリカンクラシックであるのとは違い、ポールスチュワートは、サヴィル・ロウの英国式を米国風に解釈したものということだそうです。ブレザーのスタイルもポケットが片方に2つついている英国式。上のポケットはチェンジポケットといって小銭用、あるいは上流社会の嗜みとしての狩猟の際に鉄砲の発射薬を入れておくためのものという由来があるそうですが、もちろん現代ではこれは使いません。
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ブルックスとは違った意味での男らしさ、英国風の香りがする上品な感じに魅せられました。高価でしたが、当時30代半ばで少し大人っぽくしたかったことや、独身で自由にお金が使えたこともあって総裏のこれと背抜きのタイプと2種類を愛用しました。
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ブルックスはアメリカ伝統のセンターベントですが、英国式のこちらは、サイドベンツです。パンツのポケットに手を入れることを考えるとサイドベンツの方が邪魔にならない気がします。上品な設えが今でも気に入っています。
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(4) NEWYORKER のカスタムオーダー
 Paul Stuartが気に入っていたとはいえ、春夏ものと秋冬もの一張羅ずつでしたので、普段はそんなに着ない大事な服でしたから、当時レギュラーになるものは別で、国産ブランドのダイドーリミテッド「ニューヨーカー」にはずいぶんお世話になりました。今も、ニューヨーカーのチノパンツを愛用しています。そんな当時、30代半ばの頃、パターン・オーダーで作ったのがこのブレザーです。スタイルは、当時流行っていたゴージラインが高めにくる3つボタンのスタイルでした。ちょっと毛足の長い、カシミアの入ったようなスタイルのこういったブレザーは、本来であれば2ボタンで作るべきだったと思うのですが、当時はそこまで分かっていませんでした。
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 レギュラーのサージ生地のニューヨーカーブレザーは確か2着持っていたと思うのですが使い込んでヤレてしまい、まだ1着持ってはいますが、ボタンが取れたままになっています。でもこのパターンオーダーのブレザーは生地が厚いのであまり普段着ることがありませんでした。なので15年以上は経ったと思うのですがまだそれほどヤレておらず、まだ着られます。
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さすがにメタルボタンはメッキが禿げてきています。これをオーダーしたとき、「きっと将来必要になるから」と言ってスタッフの方がレザーボタンもオプションで付けておいてくれたのでそのうち付け替えようかと思います。
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 ニューヨーカーのカスタムオーダーは結局これ1回しかしませんでした。当時のパターンオーダーはまだ何というかフィット感がそれほど良いという感じがなく、むしろ通常の型紙のバランスが崩れているような気もしたからです。ただニューヨーカーの方にはとてもお世話になり、やっぱり日本の会社の方がいいなぁと変わり始めた頃でした。
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 ここまでが独身時代に揃えたもので、結局、この後結婚してから最近まで、ジャケットは当時揃えたラインナップのままでした。
いいモノが多かったこともあって15年~20年以上に亘ってよく持ってくれましたし、ここに掲載したものは、(1)のJプレ以外はまだ現役選手でもあります。ただ、普段のスーツは地元の百貨店がセールするときのパターンオーダーに替えてしまいました。セールの時なら紳士服チェーンで買うのと値段も変わらず、今のパターンオーダーは採寸も良くて身体によくフィットしてくれます。加えて、ここで振り返ってきたように、戦後のアイビーの歴史は、アメリカがいいんだという価値観の中で、イーストコーストのエリート達が育んだ服装文化を学んだものだと思います。勉強したことは良かったと思っていますし、米国大統領の教書演説などのスーツを見るといつも見事な2つボタンのアメリカントラッドな雰囲気で素敵だなと思うのですが、だからといってその後追いをすることはもう止めようとあるときから思いました。戦前の日本は英国を範とした洋品店での誂えが文化的な歴史であったと思います。

(5) 最新、買ったばかりのMITSUMINE セレクトのブレザー
 この頃は趣味の服装は、すっかり和装に変わったので、もう以前のように洋装に費用を掛けようとは思わなくなりました。最近ご愛用は、幕張や御殿場、君津のアウトレットでのお買い物です。このブレザーは最近幕張のアウトレット最終セール!みたいな感じの大きなセールの時に買ったものです。結婚以来、総裏のブレザーを買ったのはこれが初めてです。
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 最近のブレザーはすっかり生地が変わりましたね。昔のサージ生地をもっとしなやかなにしたような織りで、着心地がとても柔らかく気に入りました。私のこれは毛85%に絹10%とモヘア5%が入っています。
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 アウトレットでかつ40%引きとかのセールで、売価の40%引いた価格からさらに10%引きましょうとかいうことで、お値段は1マン8センエンでした。昔年のことを考えると時代も変わったものだと思うしかありません。お台場仕立てになっていたりしてちょっと凝ったりしていますがそれほど上質感があるわけではありません。ボタンも何だか模様もないしシンプルです。でもこれが今かなという感じもします。
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ペアを組むパンツは、同じ幕張のアウトレットに出店しているテイジンメンズショップ(テイメン)のグレイのパンツ。こちらも最近のカットはしなやかに身体によくフィットしてくれて履き心地がとても良いです。生地を見たらイタリアのアルフレッド・ロディーナという中堅の服地メーカーのものでクオリティが高い感じがしました。こちらも40%引きでしたので8センエンくらいでオトクに揃えられました。
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 現代はよく正解のない時代、と言われます。
 ブレザーひとつ取っても、私が学生時代の頃であればアイビーで良かったのですから、ブルックスのレギュラーを買ってグレイのパンツを合わせておけば何の問題もありませんでした。高価でしたが価値が変わらないのでそれで良かったというコンセンサスもあったと思います。でも今はそういう時代ではありません。価格も昔のように体系だったものが崩れ、何が正しくて何が安かろう悪かろうなのかも分からない、アウトレットショップは玉石混合なのかどれもこれもそれなりなのか分かりませんが必死に探さなくても普通に合うモノがあればそれでいいという気がします。その意味では、服もまた、正解のない時代なのかもしれません。
 正解のない時代を生きていくのは、自分自身の納得しかないと思います。それを人がどう評価するかなど分からないし自分が納得できればそれでいいか、と思います。
 昨日の「日本が自信をなくしてる、なんて思うのはもうやめよう」と書いたのも、そんな気持ちからでした。
 なるほど経済は常に緊張があり、選択肢が多くあり過ぎるというのも却って不安になるというのも分からないではないのです。
 でも、この時代、楽しく生きた方がいい。安く済むなら安く済ませ、その分を美しい着物に投じてみたいそんな考えがあってもいいんじゃないかな。

2016.2.11 建国記念の日に。
bjiman
(追記)
その後、テイメンのブレザーを追加購入しました。
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詳しくは、こちらで

by bjiman | 2016-02-12 02:30 | 私の定番
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