翻訳時代からの卒業~レクサス・LFAから見た私のレクサス論(後編の②)~

私が若い頃、国産車と欧州車のいちばんの差は、高速性能だと言われていたと思います。ハンドリング、スポーツ性、、、きっとそういう要素のいくつかは今でも国産車と欧州車では差があるものがあるでしょう。長年シトロエンに乗っていた私は、あの居心地の良さを他で体感することはありませんでした。そういった差の証言の集合がいつか伝説となって、欧州車=進んでいる、国産車=遅れているというステレオタイプな批判につながってきたと思います。
その意味で、レクサスは、トヨタの、欧州プレミアムブランドに対する挑戦でもあるし、私はその点で強く共感しています。
レクサス・LFAは、近くで見るととんでもないスーパー・スポーツカーだと思います。

〔レクサス・LFA(開発用のモデルをほぼ市販車仕様に仕立てたもの)〕 SIGMA DP1 Merrill
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最近、LFAを開発した、トヨタのテストドライバーだった、故・成瀬弘さんと社長の豊田章男さんの「師弟関係」を取り上げた「豊田章男が愛したテストドライバー」(稲泉連著)という本を読みました。2016年3月に初版一刷だったものが6月には3刷になっているので多くの方が読まれたのだと思いますが5年間取材して書かれたということや、トヨタも写真を提供したり、豊田章男社長ご本人のコメントや多くの社員、テストドライバーの証言も多くあることから広報部が協力したのかなと感じさせるところもあって、読み応えがありました。著者は、若者の労働問題を多く取り上げている方であるせいか、成瀬弘というメカニック、テストドライバー一筋に生きた一社員が、社長の考え方に深く影響をさせたという点に「光を見る思い」があったと書かれていましたが、年配の私から見ると、トヨタという会社の懐の深さの方が印象に残りました。
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豊田章男さんは、改めて言うまでもなく、世界一の販売台数を誇る自動車会社の創業者の家に生まれた方という特殊な世界にあり、あれほどの企業を牽引していくというそのビジネスの求める厳しさは想像を絶するものです。ドイツの、例えばVWなんかのエンジニアを取り上げたクルマの記事を見ると、彼らが博士号を持っていることも多いので、Dr.○○氏はこういった、、、なんていかにも知的な雰囲気で語られることが多い一方で、豊田家が歴代工学系であったことはそんなに取り上げられることはなかったと思います。例えば章男社長のお父様、章一郎氏は工学博士ですし、祖父の喜一郎氏も東大の法学部で学ぶ前に工学部を卒業しています。そういうエンジニアの、ものづくりの精神が強い職場で、経営学を勉強して米国でMBAを取った章男さんが御曹司の立場で会社の役員になってどういうアプローチを取るのか、、、というのは私のような一介の給与所得者でも難しいものがあるだろうな、、、と想像させます。
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トヨタのテストドライバー部門を統括する成瀬氏が、そんな章男氏に、「クルマの運転もわからないような人にとやかく言われたくない」と正面切って言って、「良かったら俺が運転を教えてやるよ」なんていうストーリーは、通常の会社組織ではなかなか考えがたいことだと思います。
しかし、歴代エンジニアの家系だった豊田家の歴代社長、章一郎氏も喜一郎氏も、現場に頻繁に顔を出し、メカニックやテストドライバー達とも親しかったといいます。この本の中でも、前述の成瀬氏の発言は、父の章一郎氏から、「運転を教えてやってくれ」と頼まれていたという話もあるというエピソードも拾っていました。そんなことでもなければなかなか言えることではないと思いますが、言われた章男氏の方も大変だと思います。でも、氏は成瀬氏に「弟子入り」し、テストコースで、サーキットで、レーシングライセンスを取れるようになるほどのレベルになるまで練習し、周囲のテストドライバー達ですら呆れるほどクルマから降りなかった、、、というのですから凄いモノです。ついにはアルテッツアの中古車を買ってレーシングカーに仕立てて、ニュルブルクリンクの24時間レースに出るまでになっていく話は迫力があります。
(エンジンは、4.8㍑V10)
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このLFAでも、豊田社長は、200kmを超えるようなスピードで、サーキットを走れる訳です。いくら大会社の社長とは言っても、こんな凄いクルマのコックピットに座って、200km以上のスピードでサーキットを走れ、、、なんて言われたら、、、ご本人も「とにかく怖かった」とコメントされていますが、ここまでやらないと大トヨタを牽引していくリーダーにはなれないのか、、、という厳しさを語っているものでもあると思います。
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しかし、レクサスがプレミアムブランドになっていくには、欧州のライバル達と同じような「ストーリー」が絶対に必要であり、こんなスーパースポーツを、ニュルブルクリンクという敵地のサーキットで徹底的に走り込んで開発していくという姿勢は、欧州のプレミアムブランドが取っている方法そのものであり、かれらもLFAの開発には敬意を払っていた(LFAがコースに出ようとすると、欧州のプレミアムブランドのテストドライバー達ですら道を空けた)というストーリーは読み応えがありました。
(タイヤサイズは、305/30ZR20。聞いたこともないようなスペック)
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クルマは欧州の伝統の上にあるのであり、グローバルにやっていこうとするなら、「彼らの言語」(単なる言葉、という意味ではなく)で話せなければなりません。最近はサッカーの日本代表選手がイタリアやドイツで、現地の言葉で流暢に話す姿が印象的ですが、彼らはもちろん言葉だけじゃなくて、全ての態度に対して、欧州のスタイルに適応しているんだと思います。そして倣うのではなく、「自分の考え」を持たなければなりません。トヨタが、ル・マン24時間レースにハイブリッドで勝負に出ているのはまさにそんな強い考えによるものだと思います。
LFAは、レクサスが飛躍していくイメージそのものであり、決して欧州のプレミアムには負けないぞという強い意志の表れでもあり、ブランディングなのだと思います。
レクサスのバージョン名にもなっている「F」は、富士スピードウエイ(FISCO)のFです。レクサスは、まさに、欧州を「翻訳」しているんです。
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そして、レクサスは、このLFAで培った技術・イメージを、市販車の各車に応用しています。スーパー・スポーツカーを開発するのは、そんな技術のステップアップを狙うという効果もあるんだと思います。
(レクサス・RC-Fのカーボンコンポジット製ボンネット。LFAはボディ各部をカーボンで仕上げており、こうした技術が活かされています。それにしても、このオレンジのボディにブラックのエンジン・フードと言えば、私的には、ISUZUのベレットGT-R。日本車初のGTを名乗った「ベレG」の頃流行ったブラックのフードは、太陽光の反射を抑えるためだったようですね。そんな70年代へのオマージュも感じられるカラーリング。やっている人はもちろん分かってやっているんでしょうけれど。)
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(レクサス・LFAのコックピットのタコメーターを中心にしたレイアウト。このデザインは、ISに応用されています。ISのボディ構造接着剤による接着技術も、LFAからの応用です。)
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そういう目で、もう一度、レクサス・GSを見て下さい。
GSにも、他のレクサスと同じように、GS-Fには、LFAと同じ「F」のデザイン。ブランドイメージは大切です。
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レクサスGSを取り上げて、
「トヨタではない、レクサスを買うのならいちばん大きいLSではないのか」
「いちばん大きいわけでも、使いやすいサイズでもないGSがどこを目指しているかまったく分からない」
「このサイズでこの価格のクルマが、レクサスでなかったらどう評価するのか」
なんて、ばかげたことを言うのはもうやめて欲しいんです。
GSは、この特集で書いたように、プレミアムブランドのEセグメントカーとしてはごくごく普通のコンセプトで、価格も、サイズも、欧州のライバル達と同じフィールドの中にあります。わざわざ分かりきっていることを、文字にし、表に整理して欧州的なセグメントからも、米国のEPA規格からも比較したのは、少しでも客観的な、数字に置き換えて説明し、クルマジャーナリズムがくだらないことを書くのを本当にやめてもらいたいと思っているからです。
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「(レクサスに乗っている人は)バッジにお金を払っているところがあるから」なんてくだらないことを書くのはもうやめるべきです。
プレミアムに挑戦していくには、中身にお金をかける必要があります。これまでさんざん説明してきたように、私のHSですら、内装は標準車以外はすべて皮で、本革の色は6色、素材は廉価版と高級版の2種類もあるんです。(廉価版の場合は色は2色)それに、パネルの色も何パターンの中から選ぶことができるグレードが多くて、こういうクルマを一台一台、ユーザーの注文を受けて作る、、、こんなやり方をしていたら価格が高くなるのは当たり前です。当たり前ですが、欧州車では、ごく普通に行われてきたことなんです。大型車だけじゃない、小粋なミニ、英国のヴァンデン・プラ仕様、フランスのルノー・5のバカラ仕様、イタリア・ランチアの私が好きだったテーマというクルマの内装は紳士服では有名なプレミアムブランド・ゼニアの生地が張られていました。最近ではポルトローナ・フラウ社製の高級な本革とかね。そういうものなんです。それどころか、以前、前のクルマですが、VWのパサートの英国仕様のページを見ていたとき、カーペットの色(オプションで付ける「フロアマット」じゃないですよ、床全体に張るフロアカーペット)を選択できるようになっていたのにも驚かされました。だからこそ、いまでもBMWがミニを作ればあんなに素敵に、FIATがチンクエチェンとをあんなにかわいらしく作れるんです。
(レクサス・HS Version-L)
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ましてや、セダン全体が不振の日本の中で、セダン中心のラインナップを取っているのですから台数が出ません。価格が高くなるのはある意味仕方ないのだと思います。
最近は、200t(ダウンサイジングターボ)も導入して、求めやすいグレードの設定にも努力しているように思います。
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レクサスに対して、「使いやすいサイズでもないGS」なんていう国際的な視点を欠いた批判はもうやめるべきです。
なぜレクサスが大きいか。それは欧州車と戦っていく必要があるからでしょう。大きいと言ってもそれは横幅がグローバルサイズになっていることが要因です。
だからこそ、GSの横幅が気になるなら国内専用のクラウンにすればいいのです。そのために、クラウンは国内専用にして、国内事情である横幅1,800mmピッタリにしているんです。GSはそれにならう必要はないでしょう。同じになっちゃうなら作り分ける必要なんてないんですから。
(この薄ピンクのクラウンの色はいい色でした。)
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クラウンはいま多色展開を図っていますが、以前から日本のクルマはボディ色が少ないなんて、欧州車びいきのメディアからは批判されてきました。それがいざクラウンの多色展開がされると、「話題づくりだ」なんて批判している評論家もいて、私はめまいがしました。話題づくりだろうが何だろうが、高級車には色の選択肢が多いことはいいことなんです。もっと前向きな批評をしてください。
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そして、ホンダの社員だった山野哲也氏が、ホンダに対して
「今のホンダのラインナップには幹がない。良いクルマがあっても枝なので、幹がしっかりしていなければ枝も輝かない」という趣旨のことを書いておられたことに対して、私は、強く共感しつつ、「とっても冷静に、客観的に言えば、このことは、ホンダも、ホンダを愛するユーザーも分かっているのです。」と書いた訳もここにあります。
クラウンがなぜ毎月2千台も3千台も売れているのか。GSが数百台なのに。それは、クラウンのサイズ設定は、国内事情を考慮したものだし、やっぱり日本の国内で使うには、今の欧州車の基準は大きすぎるんです。シトロエンだって、DセグメントのC5は輸入中止になりました。
昔の自動車ファンは、翻訳世代でした。欧州車そのままを受け入れていました。昔は排気ガスの規格もあって、並行輸入車の方が速いなんてよく言われたものです。左ハンドルの方がいいとかね。でも今のユーザーはそのままを受け入れません。大きすぎるものは大きすぎると選択しない。右ハンドルを選ぶ。それは翻訳時代を卒業したんだということだと思います。
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でも、翻訳すること自体は勉強として続けなければなりません。
今のホンダになぜ「幹がない」と感じるのか。それは、欧州車ならみんなやっているセグメントに沿ってクルマのラインナップを素直に揃えることをしていないからです。
でもこれは「しない」のではなくて、「できない」のです。
レクサスを見ると分かります。レクサスのラインナップは、CセグメントのCT、DセグメントのIS、EセグメントのGS。。。と欧州流に並んでいます。そして、コンパクトのCTだって、欧州流に横幅が1,765mmあります。長い間、こうした3ナンバーハッチバックではCセグメントカーは難しかったでしょう。そして今でも日本では難しいのです。
「プリウスだって3ナンバーだけど売れているじゃないか」と書いているライターがいましたけど、時間軸を考えて欲しいんです。クルマは、縦軸(同じブランドの大中小)横軸(同じサイズのライバル)、そして時間軸(どういう歴史を持っているか)がバランス良く揃うことが必要なんです。プリウスは量販車になった2代目からずっと3ナンバーなんです。時間軸から見て、クラスが変わった訳ではないんです。
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ホンダの米国版アキュラのホームページを見ると、セダンがコンパクト、ミドル、フラッグシップと素直に並んでいます。こうやって展開すれば幹がないとは感じないでしょう。でも、今セダンでベスト10入りしているのは5ナンバーのカローラだけなんですから、全車3ナンバーの今のアキュラのセダンを日本にはもって来ても量販は見込めません。シビックも今まではそうだったでしょう。シビックがなぜ日本で売れなくなったか、時間軸で考えれば分かるんです。初代シビックは全長が3.4mしかありませんでした。これは同時代のVW・POLO(3.5m)とほぼ同じです。ポロはBセグメントカーでカローラのCセグメントよりひとつ下のクラスです。でもシビックはカローラクラスまで上がって、5ナンバーさえも超えてしまった。POLOは登場以来40年経った今もBセグメントで、全長4m以下、全幅は1,685mmで5ナンバーに入っています。CセグメントのGOLFのように大きくなることはありません。決してラインナップの構成を乱さない。「だから」太い幹があるように見えるんです。もしトヨタがカローラを3ナンバーで出したらどうなるでしょうか。批判されるでしょう。カローラはずっと5ナンバーで作られてきた車だという時間軸を守らないと批判されるんです。それにトヨタは大衆とともにある会社です。だからカローラを、レクサスのCTとは同じクラスでは作らない。横幅を1,695mmに抑えて、5ナンバーセダンにするんです。コロナをプレミオに改めても5ナンバーは守る。マーク2をマークXにしても、全幅1.8mを超えない。クラウンを超えることはないんです。そしてそのことをユーザーもよく理解しています。だからトヨタには幹があるように見えるし、今でもカローラは、ベスト10ランキングに入るんだと思います。(この点ではマツダのラインナップは昔から欧州的で、デミオーアクセラーアテンザとB-C-Dセグメントで展開し、デミオとアクセラをベスト30に入れているのは立派。)昨日の毎日新聞のカローラを取り上げた記事にはこうありました。「(今のカローラは)ハイブリッド車に燃費で及ばないし、ハイブリッド車や軽自動車に押されてランキングも低迷している」。ばかなことを書くモノではありません。今のカローラはハイブリッド車もあるし、ランキングもセダンでベスト10入りしているのはカローラだけなんですよ!と言いたいですね。以前、Web記事にそう書いていたら、カローラにはフィールダー(ワゴン)があるじゃないかと書かれたことがありましたけど、これもおかしな話です。セダンベースのワゴンは結局は派生車種なので、元のセダンが支持されなければ太い幹、ブランドにはならないんです。ライバルのサニーカリフォルニアの後を見れば分かるでしょう?と言いたいですね。最近の自動車の記事はこういう基本的な認識を欠いたものが目立ちます。
(カローラ・ハイブリッド)
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翻訳から卒業することは大切です。日本には日本の事情があるのですから、それに沿った解釈をし、そういう製品を評価することは大事。ユーザーはそうやってクルマを選んでいます。
だからと言って翻訳(勉強)することも大事。国内事情だけではガラパゴス化してしまい、国際競争力が低下してしまいます。
今年4月、レクサスのハイブリッド車は、全世界での販売台数が100万台になりました。
北米が34.5万台、欧州が23.7万台で、日本(22.5万台)よりも多いんです。車種別に見ると、トップはRXで33.5万台。CT、ESと続いて我がHSは6.7万台で4番目です。
LSは4万台そこそこでRCの次に少ない。ハイブリッド車同士の比較ではありますが、100万台のうち、LSは4万台、4%に過ぎないんです。レクサスが求められ、評価されているのはLSがいちばんじゃないんです。GSハイブリッドは5万台でLSよりももちろん多い。
(もっとも愛されているレクサス・RX(ハイブリッドのRX450h)
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冒頭、この記事を書くきっかけとなった「レクサスを買うならいちばん大きいLSじゃないのか?」に対する世界の答えがこれだと思います。
もしレクサスがLSだけになったら、100万台のうちの4万台分しかないんですから、たった4%。その他の96%、96万台分の販売シェアはどこにいくんですか?セダンだけで見たって、ESとHSとISとGSの計は、28.95万台。LSの4万台の7倍以上になります。みんなが選んでる「レクサスのセダン」はLSだけじゃないんです。欧州のライバルメーカーは強大だし、アジアの各国もどんどん追い上げてきます。そのシェアを、そっくりライバルに渡すことにつながるんですよ。それは、当然、我々には失われた利益になるんです。雇用にも景気にも影響するでしょう。日本の中で、日本人として、日本の基幹産業である自動車界で生活しているのなら、少しはそういうことも考えて欲しいと思うんです。大本営発表をして欲しいと言っているんじゃないんです。でも、国益を害することになる無意味な批判は避けて欲しいと切に願ってこの特集を終わります。

by bjiman | 2016-10-24 02:45 | CAR | Comments(0)
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