「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)

最近少しはましになったのかなと思って手に取った自動車雑誌。相変わらずの酷さで、許しがたいところもあります。
その中でも、レクサス・GSについて書かれたものがひどかったので、ちょっと取り上げてみたいと思います。
内容のどうのこうのではなく、私自身、自分の思うようにレクサスを解説したものを見たことがないので、ちょっと例は良くないけれどもレクサスを取り上げた記事を題材に、自分なりのレクサス感を書いてみたいと思います。

◎著名な自動車ライターの記事で、GSについて、
「トヨタではない、レクサスを買うのならいちばん大きいLSではないのか」
「いちばん大きいわけでも、使いやすいサイズでもないGSがどこを目指しているかまったく分からない」
「このサイズでこの価格のクルマが、レクサスでなかったらどう評価するのか」
「(レクサスに乗っている人は)バッジにお金を払っているところがあるから」
と書いてあった記事を目にしました。自動車を専門とする著名なライターがこれではただ呆れるばかりです。こうした言葉が、私を含むレクサスユーザー全体に向けられているということが分からないのでしょう。GSがどこを目指しているのか「まったく分からない」とのことですので、説明したいと思います。

LEXUS GS300h (SIGMA DP1 Merrill)
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_02501372.jpg
 レクサスのセダンは、欧州流のセグメントに基づいたFR車のIS-GS-LSというラインと、アメリカの指向に合わせたFF車のES(昔のカムリ・ウインダム)がありますが、欧州流のセグメントのラインをドイツのプレミアムカーと比較整理するとこうなります。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_02530919.jpg
 レクサスがライバルとしているドイツのプレミアムブランドは、最近ラインナップをCセグメント以下にも広げてきていますが、D、E、Fセグメントの基幹車種は昔から変わらずにずっと同じ形式でメルセデスとBMWはFRで、アウディは純粋に技術的理由ですべてFF及びFFベースのAWD。この考え方は太い幹のように変わりません。変わらないからこそ、太い幹になり得るのです。このラインナップの中で、Eセグメントのメルセデス・EクラスやBMWの5シリーズは、このプレミアムセダンの中で多くのユーザーに愛用され、ブランドのイメージを作ってきた中心的なクルマです。レクサス・GSはこれらをライバルとするEセグメントセダンとしてごく常識的なコンセプトのものです。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_02560275.jpg
 セグメントにはそれぞれ適正なサイズというのがありますから、どのブランドであれ、それぞれのセグメントにふさわしいサイズを持っています。EセグメントのライバルたちとGSを並べてみれば分かるように、GSのサイズは、ライバル達とほとんど同じディメンションを持ち、むしろ少しコンパクトで、回転半径が最も小さい。従って、これらのライバルたちと比べて、「使いやすいサイズでもない」どころか、唯一4.9mを下回る全長と、ちょっとだけ小さい横幅、最小の回転半径なので、小回りが効き、他のプレミアムセダンよりも日本で使うときにも少し扱いやすいでしょう。A4の回転半径が5.7mと大きいのはこの車がFFだからで、同じように5.7mのスペックであるFFのHSに乗る私から見ると、GSの5.3mはうらやましいスペックなんです。価格もハイブリッドの300hで、ライバルのクリーンディーゼル車とほぼ同様の価格帯にあります。GSを一言で言えば、欧州プレミアムセダンのEセグメントクラス。目指していく方向は、これらの欧州Eセグメントセダンに伍してライバルとして勝負し続けられるように磨いていくことに尽きるでしょう。これほど分かりやすいコンセプトの一体何が「分からない」のか。その感覚にはレクサスユーザーとして受け入れ難いものがあります。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_04230945.jpg
◎「レクサスを買うならいちばん大きなLSではないのか」ってどういうこと?
  ばかばかしくて論評する気にもなれませんが、レクサスユーザーとして説明したいと思います。
  レクサスにもいろんなクルマがあります。この写真は2014年のものですが、右から、SUVのNX、DセグメントのIS、同じくDセグメントのHS、奥がコンパクトなCセグメントのCT。すべてがLSより廉価で小さなクルマですが、これらすべてが揃ってはじめてレクサスというブランドが成り立ち、そのフラッグシップとしてのLSがあるんです。当たり前のことですよね。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_17563311.jpg
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_18040350.jpg
 DセグメントのFR車であるISは、メルセデスならCクラス、古くは190シリーズ。BMWなら3シリーズというプレミアムカーの激戦区を闘うクルマです。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_18052697.jpg

比較していただければ一目瞭然なように、DセグメントのFRであれば、ビーエムもベンツも全長は4.6m台、全幅は1.8mそこそことほとんど同じディメンションを持っています。ISもほぼこれらのライバルと同様のディメンション。回転半径から見るとCクラスの5.1mは立派で、昔からメルセデスはターニングサークルの小ささ(前輪タイヤが倒れるように曲がると聞いたことがあります。)が特徴。ビーエムの5.4mとの差があります。アウディが5.5mで最も大きいのは前述のとおりFFのFRに対する欠点です。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_01580402.jpg
レクサス・ISは全長が4.66mのコンパクトなFRですから、当然後部座席に余裕があるとは言えません。全高もスポーティにするために1,430mmと抑えられています。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_18085997.jpg
足下には、FRですから大きなセンタートンネルがある。これで大人の5人乗車は我慢を要するでしょう。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_18111755.jpg
余談ですが、私のHSは全長が4.7mあり、A4と同じようなディメンションのFF・Dセグメントセダンです。でも、全高が1,495mmとISよりも65mmも高く取られているので、年を取ってちょいと屈むのにおっくうになってもISより楽に乗降ができるんです。写真の撮り方にもよりますが、ヘッドレストと天井の間の空間に差があることが一目で分かると思います。この空間の差が、ISかHSかの選択の目安の一つにはなるでしょう。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_18195628.jpg
センタートンネルがないFFの後部座席ってこうなんです。特にHSはこだわってフラットなフロアにしています。これならば、まん中に座った人も足をゆっくり下ろせます。これがFFファミリーカーの作り方。でもISはFRのスポーティなセダンですからコンセプトが全く違います。FRにはFRにしかない醍醐味があります。こういうのが「クルマ選び」の一つの見方というものではないでしょうか。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_18244263.jpg
◎LSのFセグメントは、色々な意味で「別格」
 Fセグメントセダンは、実用クラスのものとしては欧州車でも最高級ですから、色々な意味で別格です。セグメントという定義はもともとマーケティング会社が便宜上設けたものが元ですが、E以上のセグメントはありません。それがどういうことか、サイズと価格を見れば分かります。

 LEXUS LS600h
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_03420906.jpg
どのクルマも標準車と全長の長いロングタイプの2種類を備え、標準車でも全長は5mを超え、価格は1,000万円超。横幅は1.9m台で、アウディA8に至っては1.95mもあります。日本のトップレンジのひとつであるトヨタクラウンの横幅が1.8mですから、それよりも15cmも大きい訳です。いかに特殊なクルマか、明らかです。トヨタでは、クラウン・マジェスタでも4,970mmで5m以下に納め、価格は642万円からですから、端的に言ってマジェスタ2台分。それが、Fセグメントのセダンというものです。レクサスGSも上の表にあるように300hで615万円ですからLSの価格はGSの2台分近いんです。いかにクラスが違うクルマなのかおわかりいただけるかと思います。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_02393028.jpg
5mを超えると駐車場も利用できない場面が増えるでしょう。マンションの駐車場なども5m以下となっているところも多いようです。その昔、クルマの価格は年収の半分くらいまで、という目安もありましたから、LSを買おうと思ったら年収2千万円以上が目安となります。駐車場の大きさにせよ、年収にせよ、普通の給与所得者の届くものではないと思います。駐車場が見つからないと言っても運転手がいるのであれば自分が探すわけではないですから。そういうものですよね。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_02490680.jpg
でも、だからといって、欧州に行って、メルセデスやBMWってそんな特別なクルマでしょうか。違うでしょう。実際、今やメルセデスのCクラスやBMWの3シリーズであればクラウンと価格面では変わりません。3シリーズなんて、我々世代なら「六本木のカローラ」なんて言われたものです。ビーエムもベンツも、昨今のFF車はおろか、伝統のFRプレミアムカーだって、そんなに別世界のものという訳ではありません。でもベンツのSクラスやビーエムの7シリーズは別世界です。アウディのA8なんて、日本ではそうそう見られるモノではありません。「レクサスならLSなんじゃないですか」なんて、「メルセデスならSクラスじゃないんですか」と言っているのと同じです。いかに生活感のない指摘だということが分かるというものです。「トヨタがあるのに」というのは、欧州基準で闘うレクサスと、日本基準が必要なトヨタの違いを分からない説明にしかなりません。そのことは後でじっくり書きます。
「翻訳時代」からの卒業~私のレクサス論~(前編)_c0223825_03200681.jpg
クルマ選びには、縦軸と横軸があると思います。
横軸は、今ここで見てきたような、同じクラスのライバルとの比較です。1個のクルマとしてGSを見た時、価格とサイズを見ればレクサスのバッジが付いていてもいなくてもこれはプレミアムセダンだと分かりますから、比較するならメルセデスのEかBMWの5となります。そうやって比較してみれば、アウディのA6を並べてみても、このクルマたちは実に似通ったディメンション、価格になっていることがよく分かるはずです。当然各メーカーも意識しているはずです。
では縦軸は?と言ったら、それは同じブランドの中の小さい方か大きい方か。ビーエムで言ったら3か5か。こういう議論は普通にあったはずです。なんとなればこの2車は、同じエンジンを積んでいるグレードがあるからです。
、、、というところで続きは次回。




by bjiman | 2016-10-12 06:00 | CAR
<< 翻訳時代からの卒業~私のレクサ... トヨタ・センチュリー〈国産随一... >>