「伝統的工芸品」について

着物を始め、日本の伝統工芸品の中には、「伝統的工芸品」という表示がなされているものがあります。
「伝統的工芸品」は、伝統的工芸品産業の振興に関する法律という法律に基づいて、経済産業大臣名で指定がされているもので、これが表示されていれば、産地と国が認める伝統的な工芸品ですよということが分かるようになっています。伝産法は昭和40年代以降の高度成長と引き替えに失われつつある手仕事の良さを活かした伝統工芸の価値を見直し、振興するために昭和49年に制定されたもので、以後、時代の変遷とともに見直しをされながら、各地の申請に基づいて指定品を増やしてきました。
私の持っているものだと、着物ではちょっと旧いのですが通産大臣指定の表示がされている大島紬がそれに当たります。
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伝産法による表示は、伝統的な工芸品を見分ける一定の指標にはなるものの、伝統的工芸品の指定を受けるための指定要件はあくまで産地の意向によってなされるため、その考え方にはやや幅があります。
例えば上の大島紬の場合は、伝統的な絣糸の組み合わせによる柄表現が指定の要諦ですが、機械織機を使ってある程度合理的に生産できる緯総絣(緯糸のみに絣糸を用いて柄を表現する)も緯糸の柄の組み合わせ自体は手作業で行っていることから指定の範囲に含めているため、私の持っているものを含め、ある程度廉価に生産できるのに対し、結城紬の場合は、手作業で紬糸を引き、柄ものについては地機という伝統的な織機を使ったもののみを指定要件にしているため、反物段階で70万、80万円とか100万円を超えるようなものが対象となることとなり、結果的にそれ以外のリーズナブルな結城紬の価値をわかりにくいものにしている面があります。これは、「伝統的な結城紬」というものはそういうものであるという産地の強い意向によるものとのことですが、何も伝産法の指定を受けようが受けまいが、国指定の重要文化財であり、最近ではユネスコの世界遺産にも指定されているということもあって、結城紬は、あえて伝産法に基づく伝統的工芸品の表示を行っていません。

〈結城紬の表示。上が国指定重要文化財で、かつ伝統的工芸品指定の手引き紬糸・地機織の結城紬。伝産法指定の表示はありません。下が私所有の石下地方で機械引き紬糸、機械織機を使って織られた石下結城紬。〉
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私が所有している結城紬は表示のあるものはすべて石下結城なので、ユネスコ世界遺産、国指定重要文化財ではなく、伝産品を振興するための伝産法指定品ですらない訳ですが、それでも立派な結城紬で、しなやかな着心地を持っています。それでも地元の呉服屋の店頭で珍しく石下結城紬を多く取り上げられたコーナーが出来た際、よせばいいのに、「これはユネスコ世界遺産、重要文化財の結城紬ではありません」などと大書きされていてちょっと呆れてしまいました。クレームが怖いのかもしれませんが、反物で70万とか100万とかするものを一般の呉服店の店頭でふらっと買う人なんて滅多にいないのですから、むしろ表示のあるものとないものの違いをもっと分かりやすく説明しないと、一般の呉服店の店頭で売られる石下結城だって数十万円するのが普通ですから、そいういうものですら、「本物じゃないの?」という疑問や誤解を広げているようなものです。

〈先日私が購入した石下結城紬の柄違い。石下結城は、表示のしっかりしたものであれば結城入門にぴったりだと思っています。〉
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呉服店のスタッフの方に伺ったところ、売る側の立場としては、やっぱり結城なら地織のものは間違いがないということはあるようです。今の私が購入しているような産地問屋さんが自分できちんと結城だと表示しているものは間違いがないのでしょうが、そういう呉服店の気持ちというものも少し理解できるような気がしました。ただ、着物というものは、実際に自分で買い、自分で体験してみなければ本当の価値が分からないものだとも思います。大島紬の場合も、鹿児島本土産で、機械織りで、数万円で買える伝産品でないものもあれば、奄美大島産の手織りで、これは価値があるなぁと一見して分かるようなものはかなり高価なものもあります。

〈奄美大島産の伝産品〉
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〈私所有の鹿児島本土産の機械織。伝産品指定ではないもの。伝統の絣はありませんが、大島ならではのシャリ感を持っています。〉
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これらはその多くが価格と比例しますが、使い心地においては必ずしも比例する訳ではなく、TPOによるという気がします。
私は、大島は伝産品の亀甲、緯総絣のちらし亀甲、伝産品ではない縞大島の3種類を持っていますが、使い心地、所有の満足感などから言うと、やっぱり伝産品の亀甲がもっともオススメできるものだとは言えます。ただし、残念ながらそれはリサイクルでもない限り高価なものが多いことも事実です。
(私のはリサイクルです。)
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また、私の持っているものでは、新潟県の小千谷縮(おぢやちぢみ)のように、伝産品指定でありながら、伝産品の表示をしていないものも見られます。
〈小千谷縮の表示〉
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あるいは、福島県指定伝統的工芸品の会津木綿やからむし織、会津桐の下駄や箪笥のように、県指定の伝統的工芸品ではあるけれど、伝産法の指定は受けていないけれど、もちろん伝統的工芸品としての価値があると感じられるものもあります。

〈福島県指定伝統的工芸品、からむしの帯〉
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私がこれらの経験を踏まえて考えたことは、伝産品を知ることは、着物に関して言えば、呉服業界、産地、着物を愛用してきた方々からこれは伝統的工芸品だと認められてきたものを知ることになり、選択の参考とはなるものの、それ以外の価値を知らずに表示がないから伝統的工芸品としての価値がないということではないということ。これは当然かもしれませんが。
一方、例えば結城紬や大島紬のように、指定を受けているものとそうではないものの間には、やはり評価の差というものがあることと、本当には、自分で着てみたり所有してみたりしないと、その違いが体感できない、ということです。
私はいつか、地機織りの結城紬をリサイクルで入手してみたいなと思っています。

2016.3.23 bjiman
SIGMA DP1 Merrillほか

by bjiman | 2016-03-24 05:00 | 和装・着物生活・伝統的工芸品 | Comments(0)
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