Think Global の先にあるもの ~TRIODE TRV-88SE

TRIODE(トライオード)の真空管式プリメインアンプ・TRV-88SEを愛用し始めてから8ヶ月になります。

TRIODE TRV-88SE (SIGMA DP3 Merrill)
c0223825_14365915.jpg
出力管のKT88はイギリスのGECがオリジナルで、真空管アンプの出力管としては非常にメジャーなものです。トライオードのエントリーモデルとしては、同じく代表的な出力管のEL34を用いたTRV-35SEがあり、音質の好みで選択できるようになっています。一般にKT88を用いたTRV-88SEはパワフルな音質でJAZZ・ROCK向きと言われますが、私もTRV-35SEとの比較であればそのように思います。自宅で8ヶ月鳴らしてみた感想(スピーカーはJBL・A822)では、ギターとピアノが非常に綺麗に鳴るという印象です。もちろん音質の良いCDであればボーカルはとてもリアルな表情があるように思います。音質の好みはあくまでも個人的なものだし、定性的なものに過ぎないのですが、考えてみるとギターアンプには今でも真空管が根強く愛されているのでギターと真空管アンプの相性が良いのも当然のように思います。
c0223825_01063700.jpg
いわゆるフィラメントに灯が点っている感じは真空管カバーを外してじっくり見れば感じられますが、普段それを見入ることはありません。熱の暖かな感じと音のリアル感ある表情。真空管アンプの魅力は、そんなところで十分感じられると思います。
c0223825_01112214.jpg
私はそんなに思いの深いマニアではありませんが、オーディオは中学時代からのファンなので、まぁ好きな方だと思います。中学や高校時代は、高価なオーディオ機器はもちろん買えませんから自分で工夫するしかありませんでした。高校時代愛用していたアンプも自作で、、、自作と言ってもパワーアンプIC(ビクターのスーパーA回路がセットされた珍しいものでした。)を買って、添付の設計図例に書かれた規格のトランスやコンデンサー、ICをセットするヒートシンク、全体がレイアウトできそうなケース、その他スイッチ類などのパーツを別に揃えて、後は設計図例のとおりにハンダしながら配線するだけ、というものでしたが、配線すればちゃんと音が出たし、電源系はこだわって好きなタンゴのトランスや高品質なコンデンサーにしたり、電源用に付けた簡単なLEDも点灯してくれたので、それなりに楽しめました。その時にひとつだけアレンジしたのがボリュームを付けたことだったのですが、これは定格が合わなかったらしく動作しなかったので結局レイアウトしただけで配線を外して元通りのパワーアンプとして使い、テープデッキのラインを通してプリアンプ変わりに使うという変則的なシステムにしていました。(パワーアンプICは今でも普通に入手できるのでご興味のある方はご参考になさって下さい。)
何でこんな昔話をしたかというと、このTRV-88SEは、インプットセレクターとボリュームを付けただけのパワーアンプといった体裁で、自分が昔使っていたものと似ているなあと変に感心したからです。この会社はキット製品も出しているし、良い意味でアマチュアリズムを持ったところがあるなぁと思います。
c0223825_01204795.jpg
トライオードの真空管は基本的に全て中国製で、一部の高級グレードを除けば、湖南省の曙光電子というメーカーに製造委託をしているOEM品です。曙光電子は韓国LG傘下の会社だそうですが、トライオード用の真空管は日本向けのOEMといってもカタログによると月産2000本以上も使用しているとのことなので、それほど数が出るなら曙光電子にとっても十分ビジネスになるでしょう。補修用のKT88もトライオードから1本8,000円で供給されるので安心感があります。トライオードの製品は中国で製造されていることや、真空管もこのように独自に確保していることもあって製品価格が十分リーズナブルですが、こうした製造方法は、単にグローバルなビジネスというだけではなく、グローバル化の利点を活かしながら消費者ニーズに合ったものを実現するという現代的な方法でもあるとも思います。
c0223825_01471065.jpg
 トライオードは1994年創業の若いオーディオ機器専業メーカーですが、すでに創業以来20年を経過したということでもあります。企業の寿命は30年と以前から言われますし、これからの10年をトライオードがどう展開していくかは分かりません。しかし、トライオードのようなビジネスが厳しい20年を超えてきたということは評価に値すると思います。
 私が中学・高校時代を過ごした70年代から80年代は、オーディオが全盛で多くのメーカーが製品を供給していましたが、それから20年経ってオーディオブームがすっかり消失した2000年にかけて多くのオーディオメーカーが消滅ないし撤退しました。サンスイやAKAI、ナカミチなど素晴らしい製品を出していたメーカーでも事業を継続できなかったこの時代の中、どこの有識者が1994年にオーディオメーカーを創業して成功できると明言できたでしょうか。トライオードの20年の歩みは、ビジネスの可能性を開くシーズは、こんな環境の中でも見つけることができるという一つの証拠でもあるように思います。トライオードの製品は、グローバル経済のメリットを活かしてはいますが、それだけでは語れません。1社で中国に渡って真空管などという過去のデバイスを現代的なサウンドに活かせるクオリティに仕上げるように発注し、それを使って日本のオーディオマニアが聴いても、「まぁいいんじゃない」というレベルまで持ってくることはとても大変なことだったでしょう。それだけではなく、製品の企画の仕方がシンプルで、アマチュアリズムを持ったものになっている。私のような昔工作をしていたファンが、「あぁやったやった」という共感を持つものになっている。売れる商品というのはこういうものか、と思わされます。オーディオ製品の可能性は、まだまだあったのです。

Triode TRV-88SE/SIGMA DP2 Merrill
c0223825_02113907.jpg
 弘兼憲史さんが、コミックの「社長・島耕作」シリーズで2008年に社長に就任した「島耕作」に言わせたスローガンは、「シンクグローバル」でした。グローバル社会の中で世界が急速に小さくなり、世界の多くの国でディファクトスタンダードになることが殊更に重視され、携帯電話が「ガラケー」と言われ出したり揶揄されるようになりました。私は、NECのモバイルギアの記事でも少し触れたのですが、その言葉に違和感を持っていました。
 私がオーディオファンになった70年代、日本のオーディオメーカーが作る製品の多くは欧米のメーカーの香りがするものが多かったと思います。マランツやマッキントッシュのようなアンプ、JBLやALTECのようなスピーカー、スチューダーやアンペックスのようなテープデッキ、、、例はいくらでもあるでしょう。当時の輸入品は1ドル360円の時代で非常に高価でしたから、JBL風、ALTEC風でも良かったし、JBLやALTECは高価だったので国産品の「~風」を買うしかなかったのです。(私はスピーカーの設計に熱中していたので、FOSTEXやCORALのスピーカーユニットが大好きでした。)
 国産の電気メーカーというのはその需要の多くが国内消費で賄われていました。昔のオーディオファンはそういうことを知っていたから、急に欧米の製品を買えるようになったからと言って、「国産品は遅れている」なんていう議論をしなかったと思います。むしろ、物まねから学習してサンスイのアンプやTEACのテープデッキ、デンオンのターンテーブルなど非常に優れた製品が生み出された技術を高く評価したと思います。

〈私が愛用した歴代NECモバイル端末〉
c0223825_03341303.jpg
 社長・島耕作シリーズも終わって2016年の現在、製造業の多くはグローバル社会に対応して、製品にも多様な国のアイディアが活かされたものが出てくるようになってきました。トライオードのアンプもそうでしょうし、私が愛用するシグマのカメラも典型例のひとつだと思います。
 SIGMAカメラの特徴はRGBを縦配列で取り出す3層構造のイメージセンサーですが、これを考え出したのはカリフォルニア工科大学のカーバ・ミード教授が率いるチームの研究で、それをベンチャー企業の「Foveon社」にして、高性能なカメラ用のイメージセンサー開発プロジェクトとして売る、こういった方法がシリコンバレーのビジネスですが、まだ海のものとも山のものともつかぬアイディア段階の構想で企業の命運を賭けた投資をすると決めたシグマの先代社長の決断もまた、なかなか出来る事ではないと思っています。今の社長もDPシリーズの成功やFoveon社の子会社化を通じて、Foveon=SIGMAというイメージを確立したことは素晴らしいと思っています。そしてその製品群は、すべて福島県会津工場製で、MADE IN AIZU というブランド価値を創造しようとしています。

〈SIGMA DP 0 Quattoro〉 DP1 Merrill
c0223825_02443649.jpg
 シグマの山木社長の講演によると、この5年間で交換レンズ市場は3割も縮小したそうです。シグマがもし、かつてのように純正品よりもちょっと安い廉価なレンズメーカーという地位のままだったら、この市場の縮小は致命的なものになっていたと思います。というより今でも致命的なものなのだそうです。それでもシグマが歩み出していけるとすれば、こうした独創的で、高画質というイメージをFoveonを通じて獲得できたからでしょう。そのイメージを実現する製品を安定的に供給し続けることには多くの課題とあるとしても。
  (SIGMA DP1Quattoro/DP1 Merrill)
c0223825_03151069.jpg
 私は、Think Global の先にあるものは、「多様な価値観に対する評価」=多様性だと思っています。
 多様性とともに歩む=With Diversity なこと。これからを解釈していくのは、こういったしなやかな価値観ではないかと思っています。
 新聞などのメディアは、企業が買収されたり業績が不振になったりすると、日本対世界という構図でしかこれを論評することができない面が多く見られます。遅れているとか、単純な対立構造を煽ることは、レベルの低い議論にしかならないのではないかと思っています。
 よく、木を見て森を見ないということをいいますが、単純なメディアの議論を見ていると、遅れているとか、世界のディファクトスタンダードといった森ばかり見ていて、優れた技術が伸びていくシーズとなる木を見ていない。つまりエンドユーザーである消費者を見ていない議論だと思う事が良くあります。
 山木社長は、交換レンズ市場の縮小は、企業が、消費者が求める製品を提供できていないからだと分析しているとお話されていました。どんなに高性能なカメラでも、どんなに高性能なレンズでも、重ければ嫌だと思うカメラユーザーは私をはじめ多くいます。
 一眼レフのSD1を一気にディスコンにして、ミラーレスのSD-Quattroにする。こういうしなやかで、過去にとらわれすぎずに多様な価値観に素早く対応できることが、Global社会の先にあるものだと私は思います。
 Think Global の先にあるもの、私はそんなテーマでこれからも考えていきたいそんな風に思っています。

2016.3.5 bjiman
SIGMA DP1 Merrill
SIGMA DP2 Merrill
SIGMA DP3 Merrill

by bjiman | 2016-03-06 05:00 | PCオーディオへの道 | Comments(0)
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
<< 河津桜が満開の松戸・坂川 久留里城 ~後編の後半~ >>