私の好きな結城紬③ 本物とそうではないモノの見分け方 ~男着物・3年目の着物道楽 その4~

◎石下結城紬の羽織、素敵な羽裏
 私の目下の一番のお気に入り、黒と緑の杢(もく)柄の結城紬の着物。羽織の羽裏(はうら)はとってもかわいいデザイン。ご飯茶碗のような柄が、お祖母ちゃんの着物箪笥から昔のハギレを縫い合わせたような柄になっているんです。

羽織の羽裏 SIGMA DP1 Merrill
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 さて、この着物は、今、洗い張りという工程でリフレッシュに出ています。洗い張りというのは、着物をいったん全部ほどいて反物のカタチに戻してキレイに洗って仕立て直しをするもので、結城紬は、この洗い張りをする程に、柔らかさや風合いを増すと言われています。私の結城はリサイクル品で、元々の仕立ての際に湯通しという行程が不適切だったために落ちきれずにいた糊を落とす目的でのリフレッシュですが、きっと風合いを増して帰ってきてくれると期待しています。
  〈 いってらっしゃい♪ 〉
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◎石下結城紬の産地が大変に
 結城紬の中でもお手頃バージョンとも言える石下結城紬は、その名の通り石下地方(旧結城郡石下町、現茨城県常総市)で織られてきた伝統の織物です。織り手の多くは兼業農家の方々で、農閑期などに織られてきた歴史があります。常総市は今年9月に大きな災害に遭い、こうした織り手の方々も災害の影響で、織機などもかなり被害を受けたということで今後の石下紬が心配です。そんな石下地域復興のために結城紬産地問屋の奥順さんが義援金を送る目的で在庫している石下結城紬のセールをするというので買ってきた我が家のニュー石下が18日にも掲載したこの反物。網代柄のアンサンブル(2反分あるもの=疋物)です。これは来年の6月(と9月から10月)に着る単衣(ひとえ=裏地のない着物)にするように今お仕立てに出しています。
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◎石下結城紬「はたおり娘」の表示はどのように?
 ところで、この石下結城紬は、奥順さんの石下結城紬を含むお手頃バージョン「はたおり娘」のブランド名で売られているものです。「はたおり娘」の表示は、前回ご紹介した「おく玉」のものをほぼ踏襲したものになっています。
中央左側の「紬」の赤字の下は「奥順株式会社別誂」の表示があって、きちんと出自が分かるように明示されているのは大切なことです。右側の検査合格証は、石下結城紬であることを示す「茨城県結城郡織物協同組合」の検査であることが表示されています。なぜ、こうした表示が必要かと言えば、結城紬がメジャーであるが故に産地が不明の紛らわしいものが多いこともその背景にあるでしょう。
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◎結城紬の有名税? 紛らわしい表示の反物とは?
 具体的に「結城紬」ではない紛らわしい表示はどんなものかというと、私の持っているものだと以下のものがあります。
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◎「古紬結城」の表示
 この「古紬結城」なるものは以下の表示にあるように、いかにも本物の結城紬の表示に似せてありますが、例えば左側の検査済証書には、「生糸織物之証」と書いてあるだけで検査者の名称が入っていません。(石下結城の場合は「茨城県結城郡織物協同組合」の名称が入るところです。)
正確に言えば、紬糸と生糸は違うモノなので、紬の反物に対して「生糸織物」というのは不適切な表示だと思います。
 また、中央右の「紬」の赤表示は、本物の結城紬の場合は、石下紬の場合に表示されるものですが、これは「産地証明」として「織元同人会」と入っているだけで産地がどこかは分かりません。真ん中の絵も、石下結城紬のはたおり娘の場合は、機織り機と織っている娘さんの絵が描いてありますが、この古紬結城なるものでは機織り機のみが描いてあって娘さんの絵がありません。
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◎紛らわしい反物の使い道
 こういう紛らわしい表示のモノはネット販売などで多く出回っていて、非常にお手頃の価格であることが多いのではないかと思います。こういうモノは日常着と割り切って使う勉強代の一つとして考えるのであれば、それなりに使い道のあるものだと私は思いますが、本物の結城紬とは違うものだという知識も必要です。
どこの産地でどのような生産をされているのか皆目分かりませんが、業界の方に伺った範囲では屑繭というか屑糸のようなものを使っているのではないかな、というようなことです。確かなことは誰にも分からないわけですが、実際、価格は非常に安い訳で、理由があるのが当たり前だと思わないといけません。生地は腰がなくてヘナヘナで長持ちしそうもないなぁと思いましたが、その分着心地が柔らかいものです。こういうのも自分で実際に買って仕立てて、着てみないと反物だけでは違いが分からないものです。写真は画面ではうまく色が出ていないように思いますが濃い鮮やか目の緑色の着物です。

〈勉強になりました〉
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◎結城紬・本物の努力は?
 こうした類似品というか結城を語るような紛らわしいものも出回る中、結城市の産地問屋の方々は、努力して本物の結城紬を普及しようとしているように見えます。
呉服業界の問題点を書いていたらここでは書き切れないほど色々あるのですが、大島紬の横双(よこそう=絣糸を横糸にだけ使って柄を表現することでコスト削減をしたもの)などを露骨に見下す見方をする呉服屋さんに何度も会いました。あぁ横双ね、的な。石下結城にも同じような見方があると思いますが、そんな事を言っていたら呉服の普及など永久に出来ないでしょう。呉服店がそういう体質である限り、明日はないと私は思っているのですが、産地問屋さんも正直言ってこの辺りの危機感はかなりのものがあると思います。石下結城紬は、そんな意味で結城紬の普及を図る紬としての役割は大きなものがあると私は思っています。

◎ツマの石下結城紬は洒落た亀甲柄
 たまには私のモノばかりではなくて、ちょっとツマのものも掲載したいと思います。
 ツマの石下結城紬は、とってもキレイな白ベースで、こまかい亀甲柄が入っているお洒落なものです。

〈ツマの石下結城紬〉
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亀甲柄で模様を造り出すとても細かく、美しい柄模様です。
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裾周りを保護する八掛も金色のぼかしが入っていてお洒落。女性の着物はこうしたところもポイントです。
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こうした本当の結城紬の良い着物の魅力を、多くの方に知って欲しいと私は思っています。
次回は、もう一方の雄、大島を取り上げたいと思います。

by bjiman | 2015-11-29 01:21 | 和装・着物生活・伝統的工芸品
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