◎杢柄の石下結城紬
リサイクルの結城で結城紬の魅力を知った私ですが、リサイクルの結城は商標のない織り元が分からないものだったので、今度は商標のついた本物が欲しいなぁ、できれば柄はグレーか茶系の杢(もく)がいいなぁと思いながら、ネットのリサイクルショップのページを飽きずに眺める日々が続きました。なぜ杢かと言うと、私の憧れの白洲次郎氏が唯一誂えた着物が結城の濃いグレーと茶系の入ったような杢だったからです。杢という柄は、黒やグレー、茶色などの濃淡2色を織り交ぜて柄を作るもので一見無地のように見えるのですが2色が織り混ざっているので、無地よりは華やかに見える、その感じがとても好きになりました。そうして杢の結城を探していたら偶然見つけたのがこの着物・石下結城紬・杢のアンサンブルなんです。しかもこれは、結城紬の産地問屋・奥順さんの商標がついた間違いのないものでした。 〈石下結城紬・杢のアンサンブル〉 SIGMA DP2 Merrill 大島もそうですが、結城や大島はメジャーであるが故に産地で織られたものではない真似ものが多く出回ります。そのために、表示でしっかり産地のものが見分けられるようになっています。結城紬はその面でも代表格と言えるもので、これでもか、と言わんばかりに表示がされています。ここで簡単にその内容を説明します。 下の写真をご覧下さい。 これは結城の中の結城。セール会場で見かけた本物の「本場結城紬」です。(展示中の商品なので表示以外はぼかしました。ご了承下さい。) 「本場結城紬」は国の重要無形文化財で、ユネスコ無形文化遺産にも登録されています。結城紬は、繭をお湯につけて手作業で繭を伸ばして作る本真綿を使う点が特徴ですが、本場結城紬は、その本真綿から糸を引く作業も手で引く「手紡ぎ」の糸を使わなければならず、反物1反分(12m程度)の糸代だけで10万円以上になると言います。その糸を地機(じばた)と呼ばれる身体に密着させて織り加減を調整しながら織る織機を用いたものか高機(たかばた)という織機で織られたもののみが本場結城紬として流通することができます。高機の場合、絣模様の場合は本場結城としては認められません。本場結城紬は非常に手間の掛かる伝統芸能品なのでとても高価で、1反100万円を超えるものも珍しくはありません。ルールを満たしていることを証明する証書の規定は厳格で、左側の証紙には、「真綿手紡糸」の表示、真ん中左側に本場結城紬を表す「結」の赤文字、真ん中中央に、糸を手で紡いでいる姿の絵と「本場結城紬」の表記、右側に「本場結城紬検査之証」がついています。検査証には、地機であることも表示されています。この反物は地機でないと本物とはいえない絣模様なのでこの表示にも本物であるとの意味があります。 一方、私の結城は、もちろんこれも結城紬なのですが、ずっとお買い求めがしやすい「石下結城」というものです。本場結城紬が文字通り結城市を中心に織られているものであるのに対し、石下結城は、石下地方(現茨城県常総市)で織られており、広い意味での結城紬に数えられるものです。本真綿を使って織られる紬である点は本場結城紬と同じですが、本真綿から糸を引く工程は手紡ぎではなく動力機械を用いたもので、機織機も動力機を使う点などが合理化されています。その分、お買い求めがしやすくなっている訳ですが、改めて考えてみなくても、国の重要無形文化財になっているような高価なお着物を普段のお洒落着になどできようはずもなく、私にとっては石下結城のようなものがなければ結城紬に親しむことすらできません。その意味では産地問屋さんにとっても石下結城は大事なものの筈です。結城紬ではあるけれど、ブランドを守るために「本場結城紬」とは区分しなければならない。そんな痛し痒しなところが表示に現れていますが、わかりやすさにも繋がっています。まず、本場結城が手紡ぎ表す左側の証紙は、「真綿結城紬」の表示。「おく玉」はこの商品を卸している産地問屋さんの「奥順」さんの当時のブランド名。真ん中左側の赤文字は、結城の結ではなく「紬」の赤字。真ん中の表示は、「本場結城紬」ではなく「手織結城紬」右側の検査証は、「茨城県結城郡織物協同組合」が検査したもの。これは旧石下町が結城郡だったことに因むものです。 こうした厳格な表示のお陰で、私の結城紬も、結城紬の産地問屋である「奥順」さんのこのお店から出たものだということがハッキリ分かり、私はこの着物を着て、奥順さんを訪問したいなあと思っていましたので、それが果たせたときは着物の里帰りをしたようで嬉しかったです。
(奥順さんの中庭にて) SONY RX100 ところがこの着物には気になるところがありました。下の写真で比較してみると分かりやすいと思うのですが、着始めるとすぐにしなやかになった最初に買った左側の本真綿結城の藍の着物と比べて右側の石下結城は、何か肩周りとかゴワゴワしているように見えませんか?この石下結城は何度着てみても、生地のタッチが柔らかくなってこないのです。 洗えば何とかなるかなと思っていたのですが、販売元である奥順さんを訪問した際、気になっていたこのことをスタッフの方にお聞きしてみたら、一目見て「あぁ、固いですね。湯通しが甘いです。洗い張りをすれば落ちますよ。」とのこと。残念ながら昔は、流通の問題でこうしたものが多く出回っていたとか。結城紬は、反物の生地を作る時に織りやすくする目的で糸に糊をして強度を上げるのですが、この糊がついたままだとゴワゴワするので、湯通し(湯に浸ける作業)をして糊を取る作業が必須です。 湯通しは、本来であれば呉服屋さんで仕立てを頼む際に一緒にお願いする作業なのですが、十分な理解がなく、蒸気を当てて生地を伸ばすだけの「湯のし」で済ませてしまう場合があって、湯のしでは糊が取れないので、糊が残ったままのゴワゴワした着物が出回り、本来の結城の風合いを分からないまま誤解する現象になってしまうそうです。考えてみると、私も呉服屋さんの店頭で、湯のしの案内をされた場合と湯通しの案内をされた場合があるのですが、湯のしと湯通しの違いを説明されたことがありません。理解のない呉服店が、湯通しが必要な反物に湯のししか手配しなかった場合、こうした事態が発生することが考えられます。奥順さんでは、そうした事態を避けるためか、今は自前の湯通し工場を備えています。呉服屋さんの問題は次回にでも書こうと思っていますが、私は原因が分かったので、おつき合いのある問屋さんで他の着物をクリーニングに出す際に洗い張りを頼みました。クリーニング屋さんもちょっと触っただけで、「あぁこれは固いですね。でもこの位なら洗い張りで落ちますよ」と教えてくれました。ちなみに「洗い張り」とは、着物をいったんほどいて反物の状態に戻して洗うものです。普段の「丸洗い」(京洗いともいう)の際はドライクリーニングで石油に浸けるだけなので糊は落ちないそうです。洗い張りは時間もかかるので、私の石下結城が戻ってくるのは年明けになりますが、とっても楽しみです。 さて、そんな結城の話。次回は現代の石下結城のことと、結城とは言えない結城「風」について書いてみたいと思います。
by bjiman
| 2015-11-27 05:00
| 和装・着物生活・伝統的工芸品
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