トヨタ・クラウン60周年記念展に思う~クルマの自虐史観から抜け出せ~さらばクルマジャーナリズム⑤

自動車ジャーナリズムによるクラウン的なるものの否定は、それを支持し、戦後の日本社会を形作ってきた先達の歩みに対する批判です。批判がいけないというのではありませんが、私は戦後の昭和史におけるモータリゼーションを否定する気にはなれませんし、しません。クラウンの王冠マークは、戦後の日本社会において必死に働き、今日の繁栄を築いてきた先達のプライドも支えてきたものだと思います。

〈8代目クラウン〉 SIGMA DP1 Merrill
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私が20代の頃、愛読していた自動車専門誌の鼎談形式の評論集(1984~1992年)では、8代目クラウンに対する評論の中にこういうものがありました。「(クラウンは)現代の社会を肯定している。そこが気にくわない。」と。こういうところに自動車ジャーナリズムに潜む空気感の一端を感じることができます。
例えば、クラウンは、8代目で3ナンバー専用ボディを纏うまで通産省の対外的な保護政策による5ナンバー小型車の枠内ボディを設計してきました。だから、7代目までのボディにおける3ナンバー車は、前後バンパーやボディのモールディングを大きなものにすることで3ナンバーらしさを演出していたのです。

〈6代目クラウン〉2,800cc車の長いバンパー
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なぜこんな風にする必要があったかと言えば、保護政策によって3ナンバー車は自動車税の課税額を大きなものにしていたために、2,000cc車を超えるクルマの需要は限られた贅沢品でしたから普及を考えれば5ナンバーに抑えたクルマが必要だったということと、一方、部長や役職員などの肩書きに応じて、小型車と、小型車枠を超えた大きさを持つ3ナンバー車を造り分けることが当時の社会構造にマッチしていたからだと思います。
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日本のモータリゼーションは、1955年(昭和30年)のクラウン登場によって始まり、1966年(昭和41年)登場のカローラによって本格的な普及期を迎えたと言っても間違いではないと思います。そのカローラは来年、2016年に登場50周年を迎えます。カローラの凄いところは、今日現在において未だに売れ続けていること(2015年4月~9月期の乗用車販売ランキング2位)ですが、カローラ、コロナ、マークⅡ、そしてクラウンというラインナップは、日本のモータリゼーションの普及とともに、ユーザーである私たちの先達の社会での地位や所得の向上に伴って成長してきた証でもありました。
結婚して初めてのクルマがカローラ、という家も多かったのではないでしょうか。私の親も、初めてのクルマは中古の黄色のカローラで、初めての新車は白のスプリンター(3代目E40型)でした。私が免許を取って初めて乗ったマイカーもそのスプリンターでした。

〈初代スプリンター・トレノ TE27型(1972年~1974年〉
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会社での役職に応じて、よく、係長になったらコロナ、課長になったらマークⅡ、それ以上になってはじめてクラウンと言われたりしました。そのコロナは、1964年登場のこの3代目RT40型で国内販売ランキング1位を取りました。まさに、高度経済成長による所得向上とともにあったクルマだったのだと思います。直線的なラジエーターグリルの形状から、「電気カミソリ」と例えられたフロントマスクが印象的です。その例えもまた、高度経済成長による電気家庭用品の普及と期を一にしている感じですね。

〈3代目コロナ・RT40型〉
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我が家は、父がクルマに関心がなかったのでカローラ、スプリンター止まりでしたが、そのせいか、私はカローラから一つ上のコロナに憧れがあり、一度コロナに乗ってみたかったなぁという思い出があります。
この初代カリーナは、我が家のスプリンターと同世代なので、そんな思い出が蘇ります。カリーナといえば、ツマと結婚当時、義父が乗っていたのもカリーナでした。コロナ・カリーナは私にとっても思い出深いクルマです。

〈初代カリーナ2Drセダン・1970年型〉
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先の自動車専門誌の鼎談形式の評論集は、8代目クラウンが初めて3ナンバー専用ボディを纏う際、5ナンバー車の制約である横幅1,700mmを超えるボディにするにしても、ユーザーの駐車場や日本の道路条件を考慮して拡幅を最小限に留めたことも含めて、「(クラウンは)社会条件を丸ごと鵜呑みにしている。現代社会を肯定している。そこが気にくわない。」と指摘しました。
さらに、カローラについても、そのデキの良さを評して「発展性がない」「4年で終わり」「カローラ、クラウンが頂点を極めることは自動車雑誌の終焉」だとしています。
社会条件とは何でしょうか。現代社会とは何でしょうか。私は、カローラ、クラウンの発展は、日本のモータリゼーションの発展を支えた歴史だと思っています。

〈4代目カローラ・レビン AE86型〉1983~1987年
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AE86レビン、通称「ハチロク」は現代でも名前が残る成功したクルマですが、決して高価だったクルマではありませんでした。また、このハチロクがこれほど名前を残したのは、80年代に入って登場した小型車であったのに、後輪駆動のFRであったことがその重要なファクターでした。しかし、レビンがFRだったのは、この当時、トヨタのFFへの移行は極めて慎重に進められており、セダンの方はFF化し、かつ5Drセダンのスタイルは極めてヨーロッパ的な、見方によってはシトロエンのようにも見える魅力的なクルマとして登場したのに対して、2drクーペを作ろうとすると、まだ当時のFF技術ではスポーティなクルマを作るのには課題があると言われていたことや、(おそらく)一般の自動車ファンがスポーティなドライビングをしようとすると、FF車のハンドリングではまだ馴染みがないと判断したからだと思います。一方レビンはFRを残すものの、コストを掛けられないので旧型車のシャシーをそのまま使って廉価に開発するという方針がファンの気持ちにも応えられるものでした。この慎重なFF+FR作戦は、ひとつ上のコロナ・カリーナではより徹底し、セダンにもFF車とFR車の両方を併売するという極めて慎重なものでした。私が免許を取った当時のことなのでとてもよく覚えているのですが、私はヨーロッパ車的なスタイルを纏った初代FFコロナのセダンがとても気に入りました(特に’サルーン’というグレード名にクラクラしました。)が、FR車の方は、レビンの後輪サスが旧型FR車と同じ5リンクリジッドの固定軸だったのに対し、コロナ/カリーナはレビンと同じ4AGの1600ccツインカムエンジンを搭載しながらセミトレーリングアームの独立サスを持っていたので当時の自動車雑誌からは渋い選択として人気があったのを覚えています。こうして振り返ってみても、当時のトヨタの判断は、何よりもユーザー本位が基本にあるように思います。
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クラウンは、全幅を抑えたり、5ナンバー車と3ナンバー車と造り分けていたことは、言ってみれば高度経済成長時代の時代の要請に応えてきたということだと思います。
5ナンバーと3ナンバーがあることは、親会社と子会社で使い分けたり、役職員と部長などで使い分けたりすることに都合が良かった面があるでしょう。銀行の本店と支店で使い分けるとか。今では随分自由になりましたが、きっと当時は、マイカーであっても仮にゴルフ場の駐車場などでバレたりすると困るという事情もあったでしょう。堅苦しいおかしな事だと思っても、私は当時のそうした社会条件を否定する気には到底なれません。そうした先達の苦労の上に今日の隆盛があるのですから。

〈7代目クラウン・3,000ccツインカムエンジン車。1983年~〉
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クラウンやコロナ、カローラは、言ってみれば日本的な、外国車に対する規制の中で育ってきた保護政策が育てたクルマでもあります。特に外国に輸出しない国産最高級車であるクラウンはそうです。
戦後、国内保護政策中心の商工省から貿易立国への転換を目的に通産省への改組を企図した白洲次郎氏は、モータリゼーションが隆盛を迎え始めた1969年に寄稿した原稿の中で日本の自動車産業に対して「自由化に自信を持て」と叱咤しました。氏は、通産省の保護政策を高く評価し、今日の自動車業界の隆盛は通産省の指導の賜としつつ、保護によって国民は高い自動車を買わせられていることを問題視し、また、保護によって他の産業に迷惑が掛かると指摘しました。また、(これは私が白洲氏に惹かれる部分なんですが)自由化を心配する人は国民を見くびっている。仮に自動車産業のような重要な産業を米国に蹂躙されるような事態を国民は黙って見ていない(=買い支えるというニュアンス)だろうと指摘しています。私はこういう白洲氏の文章に痺れるのですが、自動車メディア業界は必ずしも白洲氏の言うような愛国心に支えられているのではないと感じます。
長くなったので、続きは次回。

2015.9.20 トヨタ MEGAWABEにて

by bjiman | 2015-11-01 02:29 | CAR | Comments(0)
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