VWの排気ガス不正事件について(さらばクルマジャーナリズム②)

ドイツ・VWの米国での排気ガス試験における不正事件は欧州へも広がり、大きな問題になっています。今回のVWの不正事件はメーカー自身が故意で違法なソフトをプログラムしていたという点で極めて悪質であると思いますが、私がメディアを見ていて相変わらずだと思うのは、「日本では問題のクルマの販売はなかった」とか当事者のVWの責任問題など、「起きた現象」ばかりに目が向いて、「なぜそうなるのか」という要因に目が向いていない点です。だからいつも議論が客観性を欠き、内国的で世界を向いていないという風になるのだと思います。

今回の事件の背景には、世界各国で広がるCAFEの厳しい燃費/排気ガス規制の影響があると思います。
CAFE(Corporate Average Fuel Economy)は、1970年代のオイルショックを背景にアメリカが考え出した燃費規制の方法で、クルマの個々に規制をかけるのではなく、そのメーカーが販売する総数に対する平均燃費(企業別平均燃費)に規制を掛けるものです。
最近は、スポーツの世界などでも、メジャーリーグの贅沢税など選手の総年棒額の高さに対して「贅沢税」を課すなどの動きがありますが、CAFEの規制も似たようなもので、燃費の悪い大型車をたくさん作っている会社は、燃費のよい小型車も作って、「メーカーの平均燃費」を良くする必要があります。
メルセデス・ベンツはもともとFRの中型車以上のクルマしか作っていませんでしたが、最近はAクラスやBクラスなどの小型FF車を生産するようになりました。こうした取り組みは、メーカーとしての平均燃費を向上させていかなくてはならないという流れに基づくものでもあるでしょう。かつてメルセデスベンツのエンジニアであったDr.ポルシェがベンツを飛び出したのは、ポルシェ博士が提案した小型車構想を、当時のベンツの幹部が認めなかったからという歴史を忘れることはできません。メルセデスはそんな歴史を持つ会社ですから、小型車製造に理解があった会社ではありません。(ポルシェ博士は、このことがきっかけでベンツを辞し、この構想に共感したヒトラーの支援を得てVWビートルを完成させることになります。)

CAFEによる規制(の考え方)は、ヨーロッパにも広がり、現時点では、ヨーロッパの規制が世界でも最も厳しいものになっています。
EUのCAFEは、燃費データではなく、排気するCo2の量そのものに規制が掛かっている点が特徴です。Co2の排気量は、燃費データを良くするために燃料の噴射量を薄くするほど悪化するという相反する性質があるので、排気ガスデータを良くするために燃料噴射量を濃くすると、今度は燃費が悪くなるというジレンマになります。VWの違法プログラムは、ヨーロッパ国内でも使われていたということなので、VWにとっては、米国のEPAに加えてEUのCAFEをクリアすることも難しかったのだろうということだと思います。EUのCAFEの規制は、2015年に販売したクルマのすべての車両のCo2排出量の加重平均を130g/kmにする必要がありました。2021年にはこれを95g/km(燃費は24.4km/ℓ)にする必要があるとのことです。
VWは違法プログラムでこれを逃れようとしました。まさに技術的な解決ができないことからくる焦りであったとしか思えません。

私は、MIRAIのミライ(さらばクルマジャーナリズム①)の記事の中で、今後、内燃機関によるクルマが作れなくなる時期を見据えて、エンジンに依らない動力を開発する必要があることは、もう「決まった未来」であることから、水素燃料電池自動車であるMIRAIの出来を云々するより、前を向いて開発していくしかないということと、ディーゼルエンジンは当面のエコエンジンにはなり得ても、既にフランスのパリでは、パリ市長が2020年には、市内でのディーゼル車の走行を禁止する考えであることを表明しており、多くのパリ市民がこれに賛意を示していることが伝えられていることを書きました。2020年といえばあと5年しかありません。フランスでは既にそういう認識が進んでいるのです。
カリフォルニアのZEV(ZeroEmissionVehicle)法では、ZEV車を電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)と定義していて、高速道路のエコカーレーンとして走行レーンを設けるなどで優遇しています。これを(あえて紙名は書きませんが)大新聞がハイブリッド車のプリウスがエコではない?と報道しているのだから呆れるばかりです。プリウスにはPHEVも用意されていますが、そもそもPHEVはハイブリッド車です。ハイブリッド・プリウスの技術なしにPHEVが作れますか??

〈プリウス・PHEV〉 SIGMA DP1 Merrill @お台場MEGAweb
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ましてトヨタはすでにFCVも世界に先駆けて量販車を発売しています。ドイツで主流のディーゼル車はこの法律の指すZEVではないので、この走行レーンは走れません。いかに自動車メディアというものが日本のメーカーに対して客観性を欠き、近視眼的で、メーカーの姿勢を伝えていないかということです。

〈水素燃料電池自動車(FCV)TOYOTA・MIRAI〉 SIGMA DP1 Merrill @お台場 MEGAWeb
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また、将来の規制値の方向は何年も前からある程度想定されており、EUののCAFEでは、2025年にはCo2の排出量を70g/km以下にすることも検討されているようです。ある有名自動車専門誌の2013年の記事では、トヨタのハイブリッド技術を統括している小木曽氏のインタビューを載せており、この記事中で小木曽氏は、2021年の規制値(95g/km)までは内燃機関でも何とかクリアできるが、2025年の検討されている規制値(70g/km以下)は内燃機関だけでは困難で、何らかの電気デバイスが必要との認識を示されています。自動車メーカーはこのことが分かっているので、何らかの電気デバイスを用いた自動車に切り替えていかないといけないということを意識しつつ次世代車の開発を行っています。日本国内の規制も、2020年から欧州同様のCAFE方式になることがすでに決まっており、欧州車の技術水準に遅れないように対策されています。まさに技術開発競争なのです。
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私はトヨタ・カローラの記事の中で、2013-2014シーズンの日本カーオブザイヤーでVWゴルフが選定されたことに対して、横幅が1800mmに達する大型化したゴルフに対して、果たして、カローラがこのサイズになったら日本のジャーナリズムはこれを評価するだろうか、否であると批判しました。それよりもむしろ国内のユーザーがそれを望みません。トヨタはそれが分かっているが故、国内用のカローラと米国用のカローラを区分して、米国用のカローラを国際的なCセグメントサイズ(ジェッタと同格のサイズ)で生産・販売して米国でヒットさせています。

〈カローラ・アクシオ〉
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〈カローラ米国版〉
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VWゴルフをベースにトランクを追加しセダンとしたVWジェッタのサイズは、私のレクサスHSとほぼ同等のサイズであり、これは日本ではミドルクラスとみなされ、小型車ではないと判断されます。かつて、同じように米国ではベストセラーであるホンダシビックが、日本のジャーナリズムからは「大きくなりすぎだ」と批判され、ホンダの首脳をして、「シビックの日本での役割は終わった」と言わざるを得ない状況に追い込んだことに一役買ったことを私は忘れません。悔しかったからです。当時のシビックは、今のVWを見れば分かるとおり、決して大きくなりすぎたクルマではありませんでした。その事を、クルマジャーナリストは分かっていた筈です。
私は「日本のカローラ」が、国際的なサイズが肥大化しようとも、横幅1700mm以下の日本専用の「5ナンバーサイズ」に納めて、かつ、その販売成績を伸ばしていることが見識のある判断だと思います。
なぜなら私たちは日本で生活しているのであり、国内ではまだまだ幅の狭い道路や駐車場が多くあり、幅の大きいクルマはそれだけ日々の生活に配慮を要求するからです。

〈上諏訪 高島城駐車場にて〉 SIGMA DP1 Merrill
私のレクサス・HSは横幅1781mm。VWゴルフはこれよりも1.9cm大きくなります。
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私はかつてVWゴルフのオーナーでしたし、ゴルフが嫌いなのではありません。
しかし、欧州車の多くは、国内で使用するにはやや使い勝手が悪い領域に入っています。にも関わらずクルマジャーナリズムは、横幅1800mmのAUDI A3セダンの発表の際、アウディジャパンが横幅1800mmは日本の事情を考慮したのですと発表したことをそのまま伝えたばかりか、こういうサイズはなかったとか、使いやすいサイズとか報道したことに対して相当な違和感を感じていました。その中で一人でもいい、「カローラクラスのA3が1800mmなのは幅が広すぎるのではないか」と聞かなかったのでしょうか。クルマジャーナリズムはドイツの考え方を善とし、国内の考え方を否とする自虐的な姿勢を早晩改めて欲しいと私は願っていますし、それができるまでは、私はクルマジャーナリズムに支配的なドイツ偏重の考え方を認めません。
先のトヨタの小木曽エンジニアのインタビューを載せた同じ号で、このクルマ専門誌は、トヨタ・SAIのテストをして燃費が13.7km/ℓであると伝えました。私はこの記事に対して、兄弟車である私のHSの実走燃費に比べてデータが悪すぎる、どうしてそうなるのかと質問しましたが答えはありませんでした。ユーザー同士が実走燃費を投稿しあう「みんカラ」のSAIの実走データを見ると、本日現在、ユーザーの平均燃費は16.67km/ℓと出ています。回答ユーザー数は866人です。
私が約2年間、HSを使った実走平均燃費は16.2km/ℓと、ほぼ「みんカラ」と近似したデータを得ています。

〈私のHSの直近の燃費データ〉
シルバーウィークの最終日、9月23日に上諏訪から中央高速を使って帰ってきた私のHSは、この時も244.5kmを18.8km/ℓという優秀な成績で帰ってきてくれました。このデータは、霧ヶ峰高原のワインディングロード区間を含んでいます。
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僅かな距離しか走らない雑誌のデータに正確性を求める気はさらさらありませんが、であるならば、もっと配慮した書き方をすべきであると思っています。しかし、残念ながら、メディアはそういう事に耳を傾ける気がないのです。
私が今回、「さらばクルマジャーナリズム」と題して記事を書いているのはそういう考えからです。

今や世界の自動車開発競争は激烈を極めており、世界の巨人であるVWをして不正に手を染める状況になっています。
このような状況にあって、ドイツこそ善であるという考え方を捨て、自分の頭で考えることの大切さを私は訴えていきたいと考えています。
次回は、私がこういう考え方になったきっかけの一つである「クラウン」の開発史に触れてみたいと思います。


2015.9.27 bjiman

by bjiman | 2015-09-27 00:41 | CAR | Comments(0)
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