野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~

着物を揃えたからには履き物が要ります。夏の浴衣の時は気軽な草履などでも良かったのですが、きちんとした着物にはきちんとした履き物、ということで、雪駄を揃えました。
(1) 竹皮を使って編む本物の表を使った野崎表の雪駄です。
野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_1223848.jpg

雪駄の竹皮の表は、竹の皮を複雑な工程を経て裂いて編む手作業で作られるもので今ではとても貴重なものになってしまっています。編み方や作業工程の違いで価格が異なり、より編み方が細かいものが「南部表」といい、南部表の場合は革底と表が手縫いで仕上げられています。南部表よりは編み方が粗い(目が詰まっていない)「野崎表」の場合は、革底と表を接着で仕上げるなど一部工程が簡素化されているので少し価格が手の届きやすいものになっています。私は今回初めての本物の雪駄だったので、野崎表の雪駄にしました。
(2) 野崎表の編み方は南部表に比べれば粗いのですが、全部手作業で編んでいることを考えると大変な手間だと思います。
野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_1332310.jpg

これまで着物や帯、小物の類は近所の呉服店などで用立てできていましたが、本物の雪駄となるとそうもいきません。幸い、本場浅草で100年続く履き物屋さん「辻屋本店」の店主さんは大学時代の旧友。着物を着て浅草へ出かけました。
(3) 浅草・新仲見世通りにある「辻屋本店」。由緒正しい感じのお店構えです。
野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_1424396.jpg

(4) お店では職人さんに希望をお伝えしながら台を選び、次に鼻緒を選びます。台は野崎表と決めていたので大きさを見ていただきすぐに決定。鼻緒は迷ったのですが、好きな印伝(鹿革)を選びました。印伝は別の機会に取り上げたいと思いますがとても好きな鹿革の工芸品です。特に山梨の甲州印伝は、国指定伝統的工芸品でもあり、鹿革に漆で模様を描く独自の工夫が特徴です。(これについては別の機会に取り上げたいと思います。)私が甲州印伝の好きなところは縁起を担いだ柄。今回選んだ柄は菱菊という柄で、菊を浸した水を飲むと長寿になるとの中国の故事に因む縁起の良いもの。年齢を経たせいか、最近はこうした縁起の良いものを身につけることを好むようになりました。鼻緒を選ぶと職人さんが具合を見ながら挿げてくれます。こういう経験も知らなければ分からなくなってしまう、そんな危機感を持っています。
野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_261627.jpg

(5) 跡継ぎとして店主さんになった旧友と昔話をしている間にはじめてのお誂え雪駄が完成。素敵な箱に入れてもらい自宅で早速開けて、記念写真を1枚。とても上品。私はお洒落をしたい若い人に伝えたい。こういう上品さ、西洋の物まねではない日本オリジナルの本物。こういうものを知ることがお洒落入門だと思うのです。ハーバードやイエールの学生がブルックスやJプレスを着て、ローファーを履くのは、それが彼らのパトロンで、それを着ることが基本だからです。私たちには私たちの先祖が昔から継いできたものを知り、継承していくことが必要なのではないかと思っています。
野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_2141385.jpg

野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_2164117.jpg

野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_2195718.jpg

雪駄は履いてみると不思議なくらい足にしっとりなじみ、まるで足裏と雪駄が一体になったような歩き心地です。とても軽快な感じが魅力だと思っています。
「大阪は食い倒れ」という言葉はよく耳にしますが、京都は「着倒れ」、江戸っ子は「履き倒れ」というのだそうです。江戸っ子は履き物や羽織の裏の生地(羽裏)に凝ったりと目立たないところにお洒落をしますね。贅沢禁止令が出たこともありますが、さりげなく、というところがポイントのようですね。素敵な履き心地の雪駄と幸せな和服生活をともにしたいと思っています。
(6) 私の雪駄たち。左隣は、ビニール表、牛革底の簡易な雪駄、、、というか雪駄風の履き物というところ。色が黒いのは、本来は竹皮を燻したりして色を付けたもので、現代では竹皮を染めて作りますが、これはビニールの簡易なもの。本物の竹皮のものは雨にぬれるのは厳禁なので、実用にはこうしたビニールのものも必要です。
野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_2292364.jpg

(7) 松戸に帰ってきた後は、駅近くのそば屋「関やど」さんで天せいろをスルスルッと。
野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_2334199.jpg

野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_2344668.jpg

おそばをいただいた後は、そば湯でほっと暖まって。やっぱり馴染んだこの味が一番。関やどは、松戸の宝です。
野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_2364797.jpg

野崎表の雪駄 ~江戸っ子の履き倒れ~_c0223825_2373152.jpg


そんな江戸風三昧の一日でした。

2012.12.8 浅草、松戸にて
SIGMA SD1 Merrill
SIGMA 17-50mmF2.8
RICOH GRD2
by bjiman | 2012-12-10 02:39 | 和装・着物生活・伝統的工芸品
<< 清水公園の秋2012 ~金乗院~ 大島紬の着物ができあがりました。 >>